北九州監禁殺人事件、と聞いてもあまり詳細にピンとこない人が多いです。
総勢7人の犠牲者のうち実に6人が犯人の1人である緒方純子の家族や親戚、という、かなり衝撃的な事件でした。
その残虐性やあまりに凄惨な内容から、事件は報道規制を敷かれ、結局あまり知られることができない事件になってします。
主犯である松永太は、誰のことも手をかけずにマインドコントロールをしてそれぞれが殺し合うように仕向け、その手助けを内縁の妻である緒方純子がしていたというような構図でしたが、現実は違うことがわかっています。
判決も松永太は死刑、緒方純子は無期懲役と差が出ているように、緒方純子もまた、松永太の被害者でもありました。
緒方純子の生い立ちは?
緒方純子は、1962年2月25日に福岡県久留米市で生まれました(2019年で55歳)。
実家は兼業農家で、代々続く畑を持っている裕福な家系。
祖父は元村会議員で父親は農協の副理事長を務めていたという、お堅い家庭です。
地元で知らない人はいないくらいに有名な地元の名士であり、母親の家系も久留米市の大きな農場を名家に出ている裕福な家柄でした。
緒方純子には3歳年下の妹がいますが、両親はどちらかというと、長女である緒方純子に対して厳しくしつけていたようです。
その理由は「婿養子をもらって緒方家を継いでもらいたい」というもので、小さい頃からそのように言い含められていました。
そのため、緒方純子は非常に内向的な性格に育ち、親から隠れて悪いことをしたり、ハメを外すようなことはしないで真面目に生きてきました。
そんな緒方純子の姿は、近所からも評判で人望に優れた父親にそっくりだと言われていて、両親も緒方純子を自慢の娘だと話していました。
学生時代も全く異性交際などはせず、真面目に勉強だけを続けていた緒方純子は、短大卒業後
に「くるめ天心幼稚園」の教諭になりました。
子供が大好きだという緒方純子には、幼稚園の教諭は天職のような仕事だと言えましたが、そんな生活もすぐに一変してしまいます。
ちなみに松永太の高校時代はこれ。隣が緒方純子。#fujitv #金曜プレミアム #北九州連続監禁殺人事件 pic.twitter.com/7WufG8h56h
— 稲垣みさお (@inagaki_misao) 2017年6月9日
松永太との出会い
幼稚園で働き出してから半年後、緒方純子に松永太と出会ってしまったのです。
同じ高校に通っていた2人は、高校時代こそ全く接点はありませんでした。
しかしこの時、松永太は、自分にお金を貢いでくれるような女性はいないか、高校の卒業アルバムの住所録をみて片っ端から電話をしていたのです。
そこで引っかかったのが、緒方純子というわけです。
松永太はこの時すでに既婚者で、柳川市でフトンの訪問販売会社を経営しており、粗悪品を言葉巧みに売りつける商売をしていました。
この頃にはもう、基本的に自分の話術で相手の精神をコントロールすることが自然にできていたのです。
愛人もたくさんいましたが、誰も彼もが徐々に露見していく松永太の異常性に、逃げ出していってしまってます。
松永太がいつもターゲットにするのは、
・純粋
・警戒心が薄い
・間が抜けている
・実家がそこそこ裕福で世間体を気にする
このような人間でした。
なんだか緒方純子は、選ばれるべくして選ばれたような女性です。
今まで、男性と交際したこともなく真面目に生きてきた緒方純子は、まんまと松永太に引っかかり、彼と会う約束をしてしまいます。
しかも、電話の内容は「高校時代に借りた50円を返したい」という、通常であれば「え?」みたいな理由でした。
ですが、そこは松永太の話術によって、緒方純子はするすると誘いに乗り、会ってみたら優しそうな上に結構おしゃれな男性がそこにいたものだから、心がときめいてしまった、というわけです。
初めて付き合う男は大抵ろくなものじゃないと迷信で聞いたことがありますが、緒方純子の場合はその後の人生を大きく狂わせる最悪の男と出会ってしまい、こともあろうに恋をしてしまいました。
ただ、この初デートの際は、緒方純子は松永太の色恋の誘いを断っています。
少しお茶しただけで別れて、それ以降松永太からも連絡がなかったので、忘れてかけた頃、また松永太からふたたび連絡がありました。
それは実に1年も経った後で、ここまで期間を空けるのは、ある意味最初にもった警戒心を忘れた頃だと言えます。
無意識に行動しているというよりも、松永太の場合は全てが計算づくでした。
次に会った時に、松永太はちょっと強引に緒方純子を誘っていますが、この時も警戒心があったため拒否しています。
それでも諦めないのが、松永太という男。
きっと、緒方純子の潜在的な従順さに気づいていたのでしょう。
しかも、この時松永太には奥さんやそのほかに愛人もいたのですが、その存在を知りながらも緒方純子は「自分のことを1番に思ってくれている」という恋心から容認していました。
文学少女の緒方純子は、不良ぽい雄弁家の松永太に惹かれ、付き合い始めて半年後には性的な関係を持ってしまいます。
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松永太のマインドコントロール
交際を続けていくうちに、緒方純子は松永太の経営する布団販売会社の手伝いをするようになります。
このため、緒方純子の人格は、みるみる豹変していきました。
この布団販売会社も、松本太の巧みな話術で高価な布団を販売していき、数名の従業員を雇えるくらいのしっかりした会社という印象があった、と、緒方純子は後々語っています。
しかし、実際は「買うまで帰らない」とか「買ってくれないと困る」と泣いたりするなどして、無理やり布団を買わせることで利益をあげていました。
さらに、超高級羽毛ぶとんと銘打って売りつけたにもかかわらず、実際はかなり粗悪な布団を渡すなどしていた詐欺会社でした。
この頃、松永太は緒方純子へのマインドコントロールを開始していて、異性交際をしたことがなかった緒方純子に対して執拗に異性と関わった些細な話を責め立てて、暴力をふるうようになっていきます。
松永太から電話帳で喉を殴られ女性らしい声が出なくなったため、ドスの効いた野太い声で「期日までに代金を支払わないと、暴力団をそちらにやりますよ」と、脅迫の電話をかけるのです。
言葉巧みに緒方純子の不安感を煽り、松永太しか信用できる人間はいないと思わせたのち、眠らせない、食事を摂らせないといった虐待を繰り返されています。
そのうち、緒方純子は心労がたたって幼稚園を退職、自殺未遂を起こしています。
このことをきっかけに、松永太は緒方純子を実家から分籍させ、どんどん緒方純子の視野を狭くしていき、ゆっくりと自分に従順な人間として作り上げていきました。
松永太は、自分の会社の従業員に対しても虐待を行い、精神的に疲弊させることが布団を必死に売り付けるように脅していましたが、客からも訴えられるようになって、会社経営はダメになります。
この時期、松永太はもともと結婚していた奥さんとやっと離婚し、緒方純子が内縁の妻として君臨するわけです。
悪質な布団販売の件で警察に追われていましたが、逃亡し、捕まらずに時効が成立。
この時、捕まっていたら、緒方純子のこの後は何か変わっていたのでしょうか。
肉親に裏切られる
時効が成立してから、2人は北九州市に戻ってきて、1組の父娘に目をつけて監禁し、父親の方を死に至らしめてしまいます。
残った娘のおかげで事件は露見しましたが、そうなるまでには長い年月が必要でした。
だんだん、緒方純子の心はとにかく松永太の従属なロボットとして殴られないように怒鳴られないように生きていくだけを考えるようになっていきます。
その証拠に亡くなった男性が、どれだけ苦しんでいても「可哀想」とか「逃がそう」という気持ちはなかったと話しています。
それだけ、狂った環境にいたのだということがわかります。
通電以外にも虐待は色々あった。漏らした便を食わせたり檻に閉じ込めたり、食事制限・トイレ制限。寒い冬に冷たいシャワーを浴びせる、など。だいたい松永太の命令で緒方純子が虐待をする。やらないと自分が通電されてしまうから。#fujitv #金曜プレミアム #北九州連続監禁殺人事件 pic.twitter.com/kje1kOwB8k
— 稲垣みさお (@inagaki_misao) 2017年6月9日
ですが、一度だけ緒方純子は逃げ出したことがありました。
男性が亡くなった後、お金がなくなった松永太は緒方純子に命令して実家に金の無心をさせましたが、あえなく失敗。
緒方純子は、ここで初めて自分の意思で松永太から逃げることを決断し、大分県の湯布院でホステスとして働き始めて、少し心が明るくなったようでしたが、そこで終わらないのが松永太。
緒方純子の実家を丸め込み、以前亡くなった男性は緒方純子のせいで亡くなったのだと嘘を吹き込みました。
人一倍世間体を気にする緒方純子の両親は、まんまと松永太の言葉を信じ込み、緒方純子を無理やり引き戻しました。
このとき、緒方純子の父親と妹は、松永太の「かかれ!」という号令で、暴行に加わりました。
母親は、おばの元から連れ戻された緒方純子の次男を抱いて、部屋の隅で震えていたといいます。
緒方純子の絶望たるや、いかほどのものだったか。
この時点で既に松永太のマインドコントロール下にあった緒方純子の家族は、松永太と一家総出で暮らすようになり、最後は私達が知る、あの最悪の結果になりました。
松永太の指示で緒方純子を捕らえた、彼女の父(誉さん)と母(静美さん)、妹(理恵子さん)、妹の夫(主也さん)、妹の子供たち(甥と姪)は、全員殺されたのです。
なお松永太は、緒方純子の妹の緒方理恵子さんが中学生の頃に、性交渉を持っていたようです。
緒方純子の叔母の証言
緒方純子が松永太から逃げたときは、次男と一緒で、次男を叔母(母親の姉)に預けて湯布院で働いていたのです。
緒方純子は母親(叔母にとっては妹)さえも殺害しているのですが、叔母は緒方純子のことを以下のように評しています。
松永と出会う前の純子ちゃんは、明るい性格のよい子でした。環境というのは恐ろしいと思います。人と出会うことで、ここまで人間は変わるものでしょうか。
純子ちゃんの犯した罪は罪ですが、少しでも刑罰を軽くしてやってください。こんな不憫なことになったのは、松永のせいです。
緒方は一連の事件で、甥や姪まで手にかけているが?という質問に対しては、次のように話しています。
私の中に、そういう純子ちゃんはいません。
この叔母は、緒方純子を見捨てませんでした。
湯布院のスナックのママの証言
次男を叔母に預け、ほとんど着の身着のままで湯布院に逃げた緒方純子。
ここで彼女は人の情に触れます。
この場所で働く女性はワケアリの人なので、プライバシーには触れないまま、ある小料理屋のママが服や下着を揃え、しばらく泊めてあげるなど、いろいろと世話をした上、スナックの仕事も斡旋しました。
しかしそのスナックでは1日しか働かず、松永にウソを吹き込まれた肉親から「着払いのタクシーで帰ってこい」という連絡が入り、結局もとの場所へ戻ってしまうのです。
そのスナックのママは以下のように涙ぐんでいました。
あの時私が、緒方純子の置かれている状況をきちんと把握していれば、湯布院から松永のもとへ帰さなかった。それに気付かなかったことをごめんなさいと思っています。
最初に湯布院で緒方純子の世話をした小料理屋のママも、
湯布院に残っていれば、あんなことにはならなかったでしょう。なぜあんな男のところに戻っていってしまったのか。かわいそうな人だと思っています。
と、しみじみと漏らしていました。
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緒方純子のふたりの息子は?
緒方純子と松永太との間には、2人の子供がおり、2002年3月7日に両親が逮捕されたとき、長男は9歳、次男は6歳でした。
それまでは両親とは別の場所で育ち、1週間分の食料を与えられ、小学校低学年の子供が、自分たちで料理しており、監視カメラで生活を見張られ、良くない生活態度が見られると「しつけ」として通電されていました。
父親の松永太の食事だけステーキや寿司などと豪華で、家族や人質たちの前でうまいうまいと食べ、気に入らないことがあると母親の緒方純子によって自分の子供たちにも通電させていたのです。
父親の指示で、兄が弟に、弟が兄に通電させることもありました。
それでも幼い自分たちを守ってくれなかった母親に、少なくとも長男は「母親のことなどどうでもいい」と切り捨てるように言い放っています。
もちろん学校には通わせてもらえず、2人の息子はおぞましい事件の一部始終を目撃しています。
児童相談所に預けられ、養護施設で育ちました。
戸籍上は「未婚の母の子」となっており、親権者である母親と面会していたようです。
長男は施設を脱走するなどの問題児で、「0歳から人生をやり直したい」と話していましたが、後年、母親の緒方純子との面会が叶うようになってから、かなり落ち着きました。
緒方純子は、獄中から息子に手紙を書いています。
不気味だと言われている緒方純子の手紙については、美しい字も上手な季節のイラストも、彼女が松永太と出会う前はごく普通の幼稚園の先生であったこと(その頃習得した可能性の高いスキルなので)を突きつけてくる。
出会わなければあったかもしれない未来が見えるようで自分は悲しかったですね pic.twitter.com/9mlvg1v4a5— 東京靴流通センター (@ressentimanco) 2017年10月22日
緒方純子の手紙、やけに絵も上手い字も丁寧だなぁと思いましたが、もともと幼稚園教諭です。
文面に、ますますゾッとしました。
ごめんなさい。のあとの顔文字のところや、少女っぽさの残るイラストや文字、一見まっとうな内容に、何とも言えない苦い気持ちになります。
★ブログ更新★
フジテレビ「ザ・ノンフィクション」人殺しの息子と呼ばれて(後編)北九州連続監禁殺人事件・犯人の息子に密着☆母・緒方純子が息子に宛てた手紙を公開!とっても達筆です!
こちらからどーぞ↓https://t.co/I1FfhCXseu pic.twitter.com/OQniBCjEXI— Jazzy (@JazzyTokyo) 2017年10月23日
気持ち悪いくらい達筆で、どうにも薄気味悪くなるのですが、本人の育ちはいいのです。
しかし緒方純子も、息子たちには酷い虐待しておきながら、自分は松永に洗脳された被害者意識しかなさそうかな、という点も読み取れます。
山辺節子や木嶋佳苗もそうでしたが、女性犯罪者は美文字が多いですね。
ちなみに父親の松永太は、面会に来た息子に「俺は無実だから署名集めてくれ」と言い、叶わないとわかると帰れと言い放った、安定のクソ野郎です。
長男は、さいわい中学を卒業する頃に里親が見つかり、定時制高校に通いながらアルバイトを始めます。
ガソリンスタンドに勤めて毎月10万円程度の収入を得ますが、学業とアルバイトを両立させることが難しくなり、ついに里親の家を出てしまうのです。
身分を保証してくれる人がないため不安定な仕事を転々とし、ヤクザすれすれの人から紹介される日雇いの仕事で食いつなぐ日々。
やがて幼馴染の女性と再会し、結婚。
しかしそれは愛情によるものというよりは、相手の生活と身分保障のための結婚でした。
「親と同じことをしそうだから」と子供を作る気はないそうですが、2012年頃には就職が叶い、少しずつ信頼できる人間関係を構築している様子です。
2019年ではそれぞれ28歳、23歳になるのですね。
まとめ:ふつうのお母さんになれただろうに
緒方純子は、逮捕後しばらくは黙秘を続けていたようですが、なにかが吹っ切れたように自白し、現在では昔の性格が戻ったかのように真面目に刑を受けているそうです。
松永と出会ってから、20年間で失った自分を、逮捕されてからの3年間で取り戻しました。この命一つで償えるほど、私の罪が軽いとは思いませんが、どうかそれでお許し下さい。
と、神妙に死刑を覚悟しています。
緒方純子は、真面目で男性に対しての免疫がなさすぎたことが、松永太にハマっていく大きな要因だったと言えます。
子供をあまりにも箱入りで育てるのは良くないですね。
ほんと、人がその身を置く環境というのは大事なんだなあと、つくづく思わせられる事件でした。
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