あなたは知っていますか、21世紀初頭のネット界を席巻した伝説のテキストサイト「侍魂」を。
私が高部正樹さんを知ったのは、この「侍魂」からでした。
高部さんは元傭兵です。
傭兵とは、正規軍兵士と違い、その国に国籍を持たない、雇われの外国人兵士をいいます。
「侍魂」の管理人は健さんという方で、現在は結婚して家業を継いでおり、高部正樹さんを取材する途中でサイト更新が止まってしまったのですが、あのあとどうしたのか、たまに思い出すことがありました。
高部さんはあの後また戦争に行っちゃったみたいなので、心配していたんですよ。続き書いてほしいな。
今回、安田純平氏の解放で名前が出てきたので、懐かしくなったので記事にしてみました。
現在はどうしているのでしょう?
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高部正樹の経歴・プロフィール
何はともあれ、まずは経歴を。
高部さんは1964年愛知県生まれ。
子供の頃から「最前線で戦う戦闘機パイロットもしくは歩兵になりたい」という夢を持っており、高校卒業と同時に航空学生として航空自衛隊に入隊しました。
戦闘機パイロットの訓練を受けましたが、飛行訓練中にかかる重力の負荷により背中を痛め、1988年に自衛隊を除隊。
ここで日本では馴染みのない傭兵という道を選んだ理由はただ一つ、
「自分以外の誰かのため、何かのために 命を懸ける強い男になりたい」
という一心からでした。
高部さんは一人でアフガニスタンに渡航し、ムジャヒディン(イスラム教の大義にのっとったジハードに参加する戦士たち)の中の一派の「ジャミアテ・イスラミ」に加わります。
そしてソビエト連邦軍と戦い、その後はムジャヒディン同士の内戦(というか内紛)にも参加しています。
26歳ころに活動拠点をまずビルマに移し、ビルマ政府から独立したいカレン族の解放軍に加わり、ビルマ(現ミャンマー)からの独立闘争に参加しています。
30~31歳ころは、クロアチア傭兵部隊「ビッグ・エレファント」の一員として、バルカン半島北西部においてボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に参戦しています。
32歳頃に引き上げた後は、要請があったのか、再びビルマに赴いてカレン民族解放軍に参加しています。
30代後半にはイラク戦争に参加する予定でしたが、怪我などの理由でイラクには行っていません。
43歳の時に正式に傭兵業から身を引き、以降はジャーナリスト、軍事評論家として活動しています。
特にタイ・ミャンマー情勢に精通し、タイ語を操り、紛争地域の取材活動や幅広い人脈から、コーディネーター(調整役)として活動中。
男性というのは幼い頃から「ヒーローになりたい」「世界一強くなりたい」という願望を抱いているものとききますが、ここまで実直に真面目に本当に行動に移した人が、他にいるでしょうか。
経済力で平和を保っている日本に生まれて、わざわざ殺し殺されの世界に身を投じたのです、高部さんの「強い男になりたい」という思いは本物です。
そして、「本物の戦場」を知っている、数少ない日本人です。
もと自衛隊員として、災害復旧の手伝いにも積極的です。
2011年3月には、東日本大震災の被災地を支援。
福島第一原子力発電所の事故に際して、適切な対応を怠り事故の被害を拡大させたとして、当時の菅直人首相、枝野幸男官房長官、清水正孝東京電力社長ら6人を、業務上過失傷害(刑法211条)の疑いで東京地検に告発したという徹底ぶり。
第211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
他にも福島で元住民による訴訟がありましたが、福島でおこした訴えなのになぜか東京地検に送られ、結果的に不起訴になっています。
高部さんが起訴した訴訟の結果はわからないのですが、やはり不起訴になったのでしょうか。
飼いならされた私たち日本人は、もはやお上と法的に事を構える気力も発想もないのですが、高部さんは本当に物事をシンプルに分析し、ブレないまっとうな常識に基づいて、是正すべき点の改善を実直に進めています。
中学時代の野球部の後輩の方にも、ネットのコメント欄で非常に礼儀正しく優しく話しかけていたのを見かけます。
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傭兵は儲からない?どうやったら傭兵になれるの?
傭兵のお給料は、雇い主の状況によってかなり違います。
最高で月600万円(めったにない)、普通は1日4・5万~100万くらいと、ピンキリ。
雇い主が裕福だったり大手スポンサーがついていたり、またピンチ度が高かったりすると、お給料も上がります。
高部さんの場合、
・アフガニスタンのゲリラ軍の時は3ヵ月で手取り8000円、
・ボスニアの「ビッグエレファント」は月3万円
・ビルマのカレン軍は義勇兵として参戦したので無償、
・1990年末のイラク軍…月70万円(戦争が勃発すれば140万円)
・2002年のイラク軍…月40万円
だったとのこと。
アフガンゲリラはふところ事情悪かったのですね。
高部さんも自衛隊を除隊して初めての傭兵稼業だったことから、買い叩かれたのかもしれません。
毎月のお給料ではなく、「3ヶ月で8000円」ですからね……。
(※当時は契約書のたぐいはなく、飲みの帰りに「謝礼感覚」で、司令官から気まぐれに渡されたとか……)。
「侍魂」でも、高部さんが「日本の長野の温泉宿で住み込みで働いてまで傭兵稼業を続けている。イカス!」という記述がありますが、傭兵って儲からないんですね。
高部さんも手持ちのお金がなくなると、いったん日本に帰国し、その3日後には旅館にバイトに入って「いらっしゃいませ~」ってニコニコ挨拶していて、ほんとに女将さんに怒られながら仕事してたそうです(笑)。
傭兵は基本的に経費は自前の持ち出しで、報酬も交通費が「出たら良い方」。
雇う側からすれば「どこの馬の骨ともわからん信用できない連中に金を使うくらいなら正規軍の装備に使うよ」というのが実状です。
しょせんお金だけのつながりである傭兵軍の設備投資は最後ということです、お金を出す側の気持ちとしては、わからなくもありませんが……。
傭兵になるコツはビッグマウス
傭兵になる方法は、基本的に「口コミ」です。
・募集する組織からの直接のオファー
・傭兵仲間の口コミ・紹介
・現地まで直接出向いて売り込み
ほぼこの3ルートです。
高部さんは自衛隊を除隊した後、アフガンの義勇兵として戦っていた日本人兵士の記事を週刊誌で読み、たまたま日本に帰国していたその日本人兵士を訪ね、紹介状を書いてもらっています。
その人の紹介状を持って単身でアフガニスタンに飛び込み、傭兵として使ってくれと現地で直接交渉しました。
この日本人兵士、現地の人々の信頼がたいへん厚い人だったらしく、「あいつの紹介なら歓迎する」と言って高部さんを迎え入れてくれました。
さて、傭兵に採用されるには、自分をアピールするビッグマウスがとっても重要です。
どのくらいのビッグマウスが必要かというと、
・「こんなに能力の高い俺を使わないとぜったい損するぞ」
・「俺を使わないと敵に回ってやるぞ、そうしたらお前らのこんなちっぽけな組織、あっという間にぶっ潰してやるぞ」
くらいの勢いが必要です。
ただし、ビッグマウスと実力の間にあまりに開きがあると、のちのち袋叩きの憂き目に遭いますのでご注意を^^;。
高部さんがボスニアの傭兵になったのは、寒いのが嫌でビルマ(ミャンマー)に来たイギリス人とカナダ人に「ボスニア面白いから来いよ」と引っ張られたことがきっかけです。
他に、知り合いの傭兵に紹介状を書いてもらう場合もあるので、一度この世界に入り込めば、いろいろ情報が回ってくるそうです。
また、高部さんはビルマのカレン軍に参加する時は、給料のことなど度外視し、圧倒的不利な立場であったカレン軍に助力するため、その戦場に参加する意義を「義」に見出し、銃を手に取っています。
特殊部隊のような、爆弾などの特殊な知識がある傭兵は少ないようなので、頑丈な肉体と精神力、そして基本的な武器スキルとコミュ力があれば、良い条件の雇先を見つけることが出来るでしょう。
※傭兵業界においては、少し前までアフリカは「バブル市場」だったそうです。
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傭兵はぜったい仲間を裏切らない
傭兵の仕事は、おおむね正規軍の「盾」の役目を担う存在で、やることは正規軍の露払いです。
正規軍のダメージを軽減するために、司令官から「死んでくれ」同然の命令をくだされることなど当たり前。
あからさまに正規軍の兵士からは見下され、配給品も質の悪い余り物を回され、命を使い捨てに扱われる差別待遇は、どこの国でも変わらなかったそうです(基本的に正規軍兵士と傭兵は仲が悪いです)。
傭兵を志願する人は、ほとんどが超一流の技術や判断力を持っている人で、その高いスキルがかえって「訓練だけの軍隊なんて暇でつまらなくてたまらん」という動機につながり、傭兵の世界に飛び込む人が多いらしいのです。
その分、仲間意識は非常に強く、彼らに共通するただ一つの掟は「仲間を裏切らない」こと。
国や宗教といった共通のアイデンティティーを持たない傭兵たちをまとめるものが「信頼」です。
これが彼らの心の拠り所であり、戦友が窮地に陥っても絶対に見捨てません。
撤退中、バディ(戦場における二人一組のパートナー)を助けるために前線に戻り、蜂の巣にされた人もいるくらいです。
自らの誇りを守るため、人の信頼には命をかけてでも応えようとし、それが骨の髄まで染み込んでいるのが傭兵という人種です。
傭兵とは仲間を絶対に裏切らない見捨てない、裏切り者という罵りや屈辱を受け入れることを最も嫌う、この世で最も誇り高い「フリーランスソルジャー」です。
まとめ:男らしさとは行動すること
現在のトークしている高部さんの姿は、とても親しみやすくて気さくでチャーミングな雰囲気です。
ユーモアにも富んだナイスガイですがその実体験はあまりに泥臭く、戦慄すべきリアル。
作中では「男らしさ」を繰り返していますが、それは「状況を判断し、行動すること」の言い換えなのだと理解しました。
戦場で命のやり取りをし続け、ずっと軍人として生きてきた日本人は希少で、徹底した合理のみがあり、ものの見方があまりにも違いすぎます。
のんびりした一般庶民の感覚や反応に、苛立たしいと思うことも多いでしょう。
しかし、高部さんにとっては面倒なことでしょうが、もう少し我々に歩み寄り、子供に物を教えるように、噛み砕いてその壮絶な実体験に基づいた知識を伝えてもらえないものでしょうか。
そろそろ移民も流れ込んでくることですし、治安の悪化が懸念されます。
ドロッドロの情報戦を経験した元ロシア外交官・佐藤優氏を私はとても好きで、著書をよく読んでいるのですが、知識も経験も精神力もたいへんなタフネスなのに、物事の体系をわかりやすく教えてくれています。
高部さんはもちろん専門分野は違いますが、佐藤氏と通じるところはあるように思いますので、ただ体験を伝えるだけでなく、一般人が日常に取り入れやすい伝え方を工夫していただけないでしょうか。
すべてが本格的すぎて「へー」で終わっちゃって、もったいないことに飲み込めないのですよ(涙)。
たいへん真面目な方ですし、物事の本質を飾らず遠まわしにせずズバリと言ってしまうし、コメント内容があまりにリアルすぎますし、さらに戦場とはいえ実際に兵士を殺しているため、タブーだらけの人なのでテレビも使いづらいのでしょう。
今の幼稚で潔癖なメディア空間では、扱いづらい属性の人であることは否めません。
しかし当ブログは、高部さんをガチで応援しています。
ツイッターだけでなくブログ書いてくれないかな。
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